佐々木俊尚著 『ネット未来地図』 (文藝春秋刊)は、気鋭のジャーナリストがインターネットの上で起きている地殻変動を取材、要約するものです。特に(ネット)ビジネスにおける変化の到来を、ヴィヴィッドに伝えるものと言えます。
本書は、「20の論点」から構成されています。
サブタイトルにも「ポスト・グーグル時代」とあるように、多くのネット啓蒙書が、Googleやmixiなどの絶大な影響力を語るところで終わっているのに対し、本書ではそこから始まり、それ以降(=「ポスト・グーグル時代」)を迅速に解説しているのが、最大の魅力です。
では、ポスト・グーグル時代には、どのようなネットビジネスの変化が到来しているのでしょうか? 本書の「20の論点」を挙げるだけでも、感触を得ることができるかもしれません。
- amazon アマゾンが日本のオンラインショッピングを制覇する
- Recommendation お勧め(レコメンデーション)とソーシャル(人間関係)が融合していく
- 行動ターゲティング 行動分析型広告は加熱し、ついには危うい局面へ
- 仮想通貨 電子マネーはリアル社会をバーチャルに引きずり込む
- Google グーグル vs. マイクロソフト 覇権争いの最終決着
- Platform 携帯電話キャリアは周辺ビジネスを食い荒らしていく
- Venture 日本のネットベンチャーの世代交代が加速する
- Monetize ウェブ2.0で本当に金を儲ける方法
- YouTube ユーチューブは「ネタ視聴」というパンドラの箱を開いた
- 動画 動画と広告をマッチングするビジネスの台頭
- TV 日本のテレビビジネスはまもなく崩壊する
- 番組ネット配信 NHKが通信と放送の壁をぶち壊す
- 雑誌 雑誌とインターネットはマジックミドルで戦う
- 新聞 新聞は非営利事業として生き残るしかない
- Second Life セカンドライフバブルの崩壊する時
- ネット下流 携帯電話インターネット層は新たな「下流」の出現
- Twitter 「つながり」に純化するコミュニケーションの登場
- Respect 「リスペクト」が無料経済を収益化する
- リアル世界 検索テクノロジーが人々の暮らしを覆い尽くす
- Wikinomics 集合知ウィキノミクスが新たな産業を生み出す
どうでしょうか? こんなにたくさん掲げられては、インターネットからいささかでも距離を置いたところにいる読者には、読む前から“満腹感”で一杯になってしまうかもしれません。
しかし、懸念には及びません。
本書は、文春新書の中の1冊として企画されたもの。ボリュームはコンパクト。さらに、就職活動中の学生、そして現場のビジネスパーソン、さらには経営者に至るまで、インターネット時代を背景にビジネスに思いを馳せる人々に読みこなせるように記述されています。
さらに言えば、「ネット」の語を冠してはいるものの、「携帯電話キャリア」、「日本のテレビビジネス」、「雑誌(ビジネス)」、そして「新聞(ビジネス)」の近未来を刺激的に占っているところは、「ビジネス未来地図」と表題するほうが相応しいかもしれません。
繰り返しになりますが、ことビジネスに思いを馳せる人々であれば、一読してソンのない格好の「地図」と言えます。
※ この投稿は、ITmedia エグゼクティブ「みんなのミニ書評」にも若干の表現を変えて掲載しているものです。