堀内浩二『リストのチカラ [仕事と人生のレベルを劇的に上げる技術] 』は、“1日一冊”などと読み捨てられることを自ら求めるように次々と誕生するビジネス・ノウハウ書と異なったたたずまいを見せる書物だ。
乱暴に要約すると、本書はふたつの機能で満たされている。著者が渉猟した古今東西に渡る書物のエッセンス。これらをまさに“リスト”(箇条書きと受け取ればよい)として提供する部分がひとつ。もうひとつは、読者自らが良きリストを創り出し、活用するためのノウハウ部分である。
まず読者は、著者がいざなうままに、50にも及ぶ人生に相わたる味わい深い格言、プレゼンテーションや営業トーク、面談などビジネススキルのツボを押えたリストに当たっていくことで、1冊の書物にありながら多面的な先人のチエに触れることができる。
たとえば、
一、至誠に悖(もと)るなかりしか(誠意に欠けたことはなかったか)
一、言行に恥づるなかりしか(恥ずかしい言動はなかったか)
一、気力に缺くるなかりしか(意気込みは十分だったか)
一、努力に憾(うら)みなかりしか(最善を尽くしたか)
一、不精(ぶしょう)に亘(わた)るなかりしか(手を抜かなかったか)
※ 著者による編集を加えたもの
と旧海軍兵学校「五省」があるかと思えば、
1.いつまでに決断しなければならないかを知る
2.すぐに検討を始める
3.可能な限り時間をかけて熟慮する……
と、「9.11」で名声を得た当時NY市長ルドルフ・ジュリアー二の「リーダーシップ」が紹介されるというように縦横無尽。そもそも翻訳もないような好リストも、著者の絶妙な翻訳と解説で存在感を放つ。
これらだけでも、本書がトップクラスの読書家であり、同時に当代まれな啓蒙的書評家による仕事であることが理解できるというものだ。
ところで、本書の独自さが際立つのは、これら著者の博覧強記による部分のみではない。
そうではなく、これら縦横に渉猟した書物のエッセンスをリストという形式を通じ、読者と“共有”していくことを大胆に提案しているところにある。
書物には、その著者に帰属する知識と指向、そしてビジョンが含まれているものだ。これらエッセンスを抽出しリスト化していく行為は、同時に、それらエッセンスを書物の著者への帰属性から解き放つことでもあり、読者自らがリストを駆使し思考や思索を深めていく“参加”の機会に他ならない。
著者は、以下のように読者に対し、リストから学び、リストをわがものとして、最後には創造することを提案する。
リストの「守破離」
- [守]よいリストから忠実に学び、自分のものにする
- [破]よいリストの精神を踏まえた上で、自分なりにアレンジする
- [離]リストを自作する(しかし、よいリストから学んだことはその中に活かされている
エッセンスは、「リスト」に昇華を遂げるなか、だれもが広く受容でき、さらにチエを加えたり差し引いたりという永い推敲の道のりに歩み出ていくことになる。
本書が、ノウハウ書として読み捨てるに惜しく、古今東西の名言集として遇するにはより実践的であるという独特のたたずまいを見せるのは、著者の視線が、そのようなチエの共有と活用へと注がれているからだろう。
※ 本稿は、 ITmedia エグゼクティブ「みんなのミニ書評」コミュニティーに投稿したものに加筆し、再投稿したもの。