かつては消費者の心に存分に届いた、広告という名の「ラブレター」。
広告会社で「コミュニケーション・デザイン」を担当する著者は、そのラブレターが効かなくなったと言う。
- ラブレターが相手の手に届きにくくなった。
- 他に楽しいことが山とあり、相手はラブレター自体に興味をなくしている。
- ラブレターを読んでくれたとしても、口説き文句を信じてくれなくなった。
- しかもラブレターを友達と子細に検討し、友達に判断を任せたりする。
広告を生業とする人々にとり「のどかな時代は終わった」というのである。
佐藤尚之著『明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法』は、近年の広告を取り巻く環境激変の中心に、「消費者が変わった」ことを見据えることから始める。
ネットの出現+情報洪水+成熟市場。
この三連発は消費者を根本的に変えた。広告をスルーするわ、どの商品もそんなに違わないと高を括るわ、商品を使ってみた評価をネットで教え合うわ、一時代前の従順な消費者の面影はまったくない。「疑い深い消費者」の登場である。ポジティブに言い換えれば「賢い消費者」の登場だ。
さて、ではどうすべきなのか。
だれであろうとも、「賢い消費者」と向き合わずにビジネスをなし遂げることはできない。そのような地殻変動期にあるのだ。
すでに90年代よりネットメディアに手を染めてきた著者は、重要な指摘をする。
商品のイイトコロを取り上げてアピールする「広告」は、商品の真の姿を映し出してしまうネットとはもともとまったく相容れないのだ。つまり、ネット広告は従来のマス広告とは生まれも育ちも性格も目的も別物。
ここから、著者はネット時代のコミュニケーション・デザインの真髄を、事例とともに詳細にわたり展開していく。展開は広告に興味ない者にとっても、不思議に説得的。
それは、最新のネット広告活用というように、“乗り物”の乗り換えに向かうのではなく、コミュニケーション・デザインに際して「相手の趣味や行動を調べ、よくよく観察し、相手の身になってみる」という常識へと遡行していくことに由来するのかもしれない。
「ネット出現後のブランドとは『消費者の中に長く維持される愛』のことを呼ぶ」「消費者が一番信頼するメディアは消費者自身」……。
卓越した知見の数々から伝わってくるのは、著者の、消費者に向かうコミュニケーション意欲の強さにほかならない。ほとんどそれは「(消費者への)愛の強さ」とさえ言い得そうである。
本書が時流(トレンド)を語りながらも、揺るぎない信頼を喚起する魅力の源泉がそこにある。
※ 本稿は、 ITmedia エグゼクティブ「みんなのミニ書評」コミュニティーに投稿したものに加筆し、再投稿したもの。