北添裕己『SEからコンサルタントになる方法』は、IT技術職のひとつであるSE(システムエンジニア)職が、そのITスキルを活かしコンサルタント職となるための理路を整理した書である。
とは言いながら、おおむね当事者自身とその利用者(顧客)にとりイメージをしやすいSE職とは異なり、コンサルタント職の実態やその役割範囲は理解されにくい面が多い(かく言う書評者もその一人だったが)のが通り相場。
著者は、「IT系コンサルタント」を中心としたその真髄を、200ページに満たない本書で的確にまとめ上げている。
さて改めて、コンサルタントとは何者なのか。
また、SEとコンサルタントはどう違うのか。
著者はこの問いについて明瞭に答える。
コンサルタントの仕事は「クライアントの問題を解決する」ことが目的です。問題を解決するためにあらゆる手段を考え実行しますので、仕事のスキルは多岐にわたります。
それに対してSEの仕事は…(中略)…「システムを構築する」ことです。いかにシステムの質を上げ、納期どおりにシステムを構築するかということが求められます。そのため、仕事のスキルはシステム構築にかかわるものになり、システム構築に関係のないことは仕事の範疇外となります。
対比をわかりやすく、と著者は「コンサルタントは問題解決で報酬をもらうので、別にシステムを構築しなくても、問題解決さえできればいいのです」とさえ言い切るのだ。
今日、企業が事業の順調な成長(もしくは戦略的な事業拡張)を企図する際、ITシステムに手を触れずにすますケースはないといっても過言でない。
確かに、企業が、その戦略視点を整理、業務フロー見直し、そして、それを支えるITシステムの構築(もしくは改修)へ……という流れにあって、SEとITコンサルタントは共通の課題に立ち向かうことになる。
が、同じ課題と向かい合いながら、振る舞う原理が大いに異なることがわかってくる。
基本的に、与えられた目標を期日までに遂行することを最大価値とするSE。
対して、前提に含まれていない周辺情報や知識をも駆使し、顧客が抱える課題に全方位で挑むコンサルタント。
後者は、一人で顧客との関係を築き、一触即発の“問題プロジェクト”にPM(プロジェクト・マネージャ)やPMO(プロジェクト・マネジメント・オフィス)の支援要員として乗り込むことがある……。
さて、冷静で過不足ない筆致によって、読者はコンサルタントの信条から始まり、必須の重要能力であるプロジェクトマネジメント力、そして自らが営業し顧客の課題に触れ、そして依頼を得る提案力と営業力までを概観することになる。
期せずして「コンサルタント職の仕事術」の一端にまで触れることができる本書は、コンサルタント職を意識するSE職にはむろんのこと、コンサルタント初心者、そしてコンサルティングを依頼することになるかもしれないビジネスパーソンにとり、良き啓蒙書である要件を満たしている。
穏やかで明晰な文体に時折厳しさを交える著者の文体の背景に、コンサルティング職が置かれた世界の起伏を想像することができる。
※ 本稿は、 ITmedia エグゼクティブ「みんなのミニ書評」コミュニティーに投稿したものに加筆し、再投稿したもの。