iPad専用アプリケーション、Flipboardがリリースされた。
大御所VCやエンジェルらが相乗り投資したこともあって、リリースと同時に各所から異例とも言えるほどの反響を生みだしている。
たとえば、こんな感じ。
- 噂のiPadアプリ「Flipboard」登場、Twitterストリームなどを雑誌形式に
- 自分専用のソーシャルマガジンを作成するiPad用アプリ「Flipboard」がリリースに
- ソーシャルなメディア体験、Flipboard
- Hands-On: Flipboard Turns Your iPad into a Personalized Magazine
- Flipboard Buys Ellerdale, Launches Social Digital Magazine
私の印象はどうかなのかと言えば、まずは素晴らしい! だ。
使い始めてほんの数日しか経っていないにも関わらず、このアプリケーションのキモをどう理解するかが、いまや私の問題意識を独り占めしかねない勢いだ。
という次第で、唸ってばかりでも仕方ない。本稿を通じてFlipboardの概要紹介と、併せて「私の問題意識」が刺激されているポイントを書き留めておこうと思う。
1. Flipboardの体験
まずは、Flipboardとは何か、からである。
一般の閲覧体験に沿ってFlipboardを紹介していこう。
Twitterやfacebookアカウント内にある写真等へのリンクを呼び出し、雑誌表紙風に見せる
Flipboardのデザインおよび設計思想は、Appleのそれに似てミニマル志向だ。
後で述べるが、ユーザー(読者)がカスタマイズのために操作するコントロールの類はほとんど用意されていない。
行えることは、[Flip]をドラッグしてページをめくる“フリップ”操作だけだ。
ちなみに“Tech Media”“MediaBiz”“Media”は私がTwitterで定義したリスト
“表紙”をフリップすると、現れるのは“Contetns(目次)”だ。
タイル状に表示されているのは、“Section”。それぞれ独立したメディアと考えればいい。
Sectionの中には、TwitterとFacebookがデフォルトでセットされている。
それ以外は、Flipboardがデフォルトで用意したPhotosやStyleなど各種ブログチャネル群である。
さらに、空白の[Add a Section」をタップすれば、下のように、さらにおすすめメディアがリスト表示される。
また、“Section”の削除やレイアウト変更は、[Edit]をタップしてカスタマイズする
[Add a Section] パネルに用意されたおすすめメディアには知名度の高いブログ系メディア、そして、Flipboardがセレクトしたアグリゲート型メディア、そして自分自身のTwitter“リスト”などが含まれる。まさにソーシャルメディアをここで取り込むわけだ。
目を引くのは、Robert Scoble氏のような著名なブロガを前面に立てた、“キュレーター”型のSectionも用意していること。
海外のFlipboard紹介記事の多くが、「ソーシャルマガジン」などと形容をしているのは、基本的にはTwitter、Facebook上のコンテンツを取り込み、それをユーザー(読者)にチョイスさせる点のユニークさからだろう。
さて、利用開始時には、当然ながらTwitterとFacebookの両Sectionのユーザー認証を行う。
わずらわしい操作は、基本的にこれだけだ。
なにはともあれTwitterを開いてみよう。
上記は私のTLを表示してみた。ある日、ある瞬間のTLの第1ページだ。
以後は[Flip]タブをフリップすれば、次々に雑誌のページを繰っていくように読める。
いくつか気づく点があるだろう。
そう。大胆に写真がレイアウトされている。
見出しが付けられている。
そして……そう、Twitterの最大の特徴である140字制限を超えたテキストが表示されている!
解説に入る前に、この状態から一歩進んで、個々の“記事”を表示させてみよう。
上がFlipboard上に現われた私のTL内のツィートをズームインしたものだ。
通常のTwitterクライアント等で私の目に飛び込んでくるツィートは、「あ、写真ステキ!RT…」の部分に過ぎない。
上記でタイトル風に表示されている「IT戦士・岡田有花が注目のイマドキIT業界ト」とあるのは、実は「あ、写真ステキ!RT…」内で示されたリンク先のWebページのタイトルなのだ。
また、ツィートの「あ、写真ステキ!RT…」の下に表示されている、雑誌記事の本文に見えるテキスト部分は、やはりリンク先のWebページの本文である。
画面右下の[Read on Web]をタップしてみよう。上記に述べた参照関係が分かることだろう。
要するに、Flipboardは、TwitterやFacebookに止まらず、各種のブログメディアとの間で、上記のようなリッチなコンテンツ体験を生成するロジックとシステム(言い換えれば、コンテンツアグリゲーションの仕組み)を築こうとしているのだ。
「Twitter…を雑誌風に」「ソーシャルマガジン」「Personalized Magazine」……。2. Twitter体験の意味を逆転させる
本稿冒頭に、いくつものFlipboardへの論評を示したが、実はいずれも的を十分には射抜いていない。
私自身が導いた結論から言えば、
Flipboardは、ソーシャルメディアにおける本文とインデックスの役割を逆転させている
つまり、私たちは“140字”というテキスト制限の向こうに、さまざまなリンクを介しながら豊かな世界を垣間見ている。
もし、140字の世界がコンテンツの実体なのだと見なすなら、それは豊かな情報表現力を欠いた、言い換えれば痩せたメディアがTwitterであるということかもしれない。
だが、ツィートに盛られた少ない文字数の“向こう側”に、豊かな情報世界があるとすれば。そしてそれこそがコンテンツの実体だと考えるとどうだろうか?
140字のツィート本文は、実は“向こう側”にある情報世界へのインデックスとしてある、というのがFlipboardが開示した哲学なのではないか。
Twitterの「アノテーション」構想のその後がどうなっているのか動向に詳しくない私は知らない。メタ情報をアノテーションで付加
TwitterプラットフォームチームのMarcel Molina氏がTwitter APIのメーリングリストに4月17日に投稿したメッセージによれば、早ければ向こう2カ月程度でTwitterには「アノテーション」のためのAPIが実装される予定だという。アノテーション(注釈)は、名前空間、キー、値の3値からなるメタ情報で、文字通り各つぶやきに付加することができる。開発者はAPIを通して、 つぶやきにアノテーションを付加したり、読み出したりするこができる。アノテーションを付けるには、通常の投稿APIと同様にHTTPのPOSTメソッド で「/statuses/update」を叩くが、このとき、JSONかエンコード済みパラメータとしてアノテーションを渡す方式を検討しているという。
ただ、ここで語られてるのは、短い(140字!)に過ぎないテキスト本文も、メタな情報を埋め込むことによって情報を豊饒化できるという可能性についてであることは間違いないだろう。
私たちがFlipboardを前にして自覚するのは、140字テキストの“向こう側”にある豊饒な情報世界を、可視的に引き寄せる哲学とデザイン力(実装力)なのではないか。
あるいは、そのような哲学にリアリティを与えるiPadというデバイスに改めて敬意を払うべきであるのかもしれない。