保田隆明 著『デキる人は皆やっている 一流のキャリアメイク術』は、独自のポジションを持った“キャリアアップ本”だ。
何が「独自」か。
一言で表現すれば、オールマイティなポジションがそれに当たる。
外資系証券会社で世界的な大企業の組織人を経験。ベンチャー企業を創業し経営者。さらに、その後は独立して、自営のコメンテータ、文筆業を兼ねた自営独立。いまだ30歳台ながら、閲してきたキャリアに幅がある。
時々見かける「生まれついてのアントレプレナー(起業家)」が書いたようなキャリアアップ本に比べ、本書のポジショニングは応用度の高さがウリだ。
すなわち、組織人としての自己実現を目指す読者も、また、将来企業を目指す読者にとっても、十分に説得的なメッセージを受け取ることができる。これが本書に得難い価値を与えている。
これを、別の視点から言うこともできる。これを30代前半の筆者が説得的に語ることにより、同年齢やそれ以下の読者は、自らのキャリアの方向性について幅広に想定することができるはずだ。これもまた、本書の重要な役割だ。
成功に何らかの形が存在するなら、その形は間違いなく多様化しているはずです。
「キャリアを考える」というのは、あなたにとって何が本当に重要かを認識することでもあるのです。
キャリアメイク上では、自分が身につけたものや学んだもの(What you have)に目を向けるのではなく、まだ知らないことや経験したことないもの(What you don't have)に目を向けるべきです。
いずれも限りないキャリアの可能性を前にして、めまいを起こしているような若い読者には、珠玉のコトバとして響くはずだ。
また、キャリアの変更に具体的にさしかかり悩むという「いま・ここ」という実践的な課題に対しては、
一度とことんまで年収を下げないことには、年収を下げることに対する抵抗が自分の中で存在し続け、キャリア選択上での障害になる可能性が高かったのです。/そこで、一度思い切って年収をゼロにしてみればいいじゃないかと思うようになり、起業にたどりつきました。
との具体的なアドバイスによって、肩の荷が下りた気持ちとなる読者もいることだろう。
いささか軽薄に響かないでもない「デキる人は皆やっている」という冠を外して本書を読めば、「悩みに悩んだ末の結論なら、どっちに転んでも絶対に後悔しない」と、ポジティブな思考を信条とする著者の、“等身大”の人生哲学を読み取ることができる。
ちなみに、50代も半ばにさしかかろうかという評者が読んでも、ハートが熱くなるようなキャリア・メイクが動機づけられた。そんな刺激の書と言えるかもしれない。