渡辺弘美 著『ウェブを変える10の破壊的トレンド』は、著者が連載形式で紹介してきた数多くのWebサービスを、「10のトレンド」として整理し直したもの。
では、なにが「破壊的トレンド」だと見ているのか?
以下を見て欲しい。
- Direct—ユーザーを直接つかみ、ロックイン
- Free—「潤沢経済」時代のビジネス
- Crowdsourcing—みんなの知恵を利用する
- Presence—リアルタイムな情報を生かす
- Web-Oriented—すべてのサービスをウェブで提供できるか
- Virtual and Real—「仮想」は「非現実」にあらず
- Viedeos—映画やテレビの行く末は
- Interface—よりわかりやすく、使いやすく
- Search—ポストグーグルの潮流
- Semantic Technology—意味を理解しはじめる時代へ
それぞれのトレンド・キーワードの下に、総計百数十ものWebを介したビジネスの数々が所狭しと紹介されている。確かにまばゆいばかりの“新技術”、“新ビジネス”アイデアの数々。宝の山と見まがうばかりだ。
この分野については一家言はあるつもりで本書に臨んだ評者だったが、あに図らんや、知らない! 驚き! の事業が数多い。驚くばかりの情報収集への情熱と、ずば抜けた咀嚼力だ。
驚いてばかりいてはならない。本書の中核コンセプトの「破壊的トレンド」に立ち返ろう。
著者は百数十ものWeb事業(それにも増して数多くの事業に目を配ったことだろう)を論じる中で、大きな流れを見定めている。
さまざまな仲介、流通機能を省く“直接的に供給者と受益者を結ぶトレンド(=Direct)。広告やマーケティングの旺盛なパワーを駆使することにより、あらゆる便利なものを利用者に対して無償で届けてしまおうとするトレンド(=Free)。ネットの向こうがわにいる数多くの人間たちの知恵や力を(少しずつ)うまく使い、これまで得られなかった価値を安価に創り出してしまおうというトレンド(=Crowdsourcing)……。
これらは、Webという力を得て、一見すると冷厳な経済法則や制約を超えるかのような発展を加速する。
これこそ、著者は「破壊的なトレンド」だとする。
いずれも、いまだ“ITの世界に”おける事象と言えなくもない。しかし、いまや「グーグル」や「ウィキペディア」、「ユーチューブ」と、ITに親しくない人々の生活さえ変化させ得る駆動力も誕生した。
私たちは、これらの情報の山の向こうに、さらに新たな世界が開けていることを予感すべきなのだろう。
もうひとつ、著者が強く指摘していることがある。
それは、これら雨後の竹の子のように次々と誕生する、“破壊的トレンド”の卵たちへの視線の違いだ。
著者の指摘によれば、これら斬新なアイデア、技術的着想が、「ウォールストリート・ジャーナル」や「ニューヨーク・タイムズ」のような既成メディアが、時にはその一面を使って紹介することがあるという。
他方、日本においてはこれに類する現象はない。既存経済紙の一面を飾る記事とは、この時代になってさえ、大手半導体メーカーが工場施設を竣工した、といった種類のもの。彼我の差異は際だつという。
既存メディアの視線が問題だというのではない。その向こう側にいるたとえば、企業経営者らの視点もそれに倣っているのだとすると……。
倒れても倒れても、次から次へと立ち上がってくる不屈の起業意志と、新しい技術の誕生。
著者が伝えたいことは、“破壊的トレンド”の背後にあるものは、実はこのようなエートス上の差異にあるということではないか。
ところで。著者は、海外勤務と国内勤務とをまたいで、この目もくらむような新技術、新サービスの山を追いかけ続けたという。いまなら、海を越えこれら宝の山に食らいつく手段は提供されているという。
著者自らが、この差異の海を超える実践者であることを示していると読むべきなのではないか。